アリーナの無茶修行(生贄)

風鴇能太


 テンペの村は騒然としていた。村長に事情をたずねると、ひとり娘のニーナをモンスターへの生贄に差し出さねばならないという。
「おお、どこかに怪物を退治してくれるような強いお方がおらぬものか」
 クリフトとブライは、顔を見合わせて冷酷な笑みを浮かべた。
「ピンクの出番だな。ニーナという娘と年格好も似ている。身代わりになってあげなさい」
 アリーナは緊張した。ザコ敵が相手では、後ろ手に縛られたり足首を鎖でつながれて歩幅を制限されていても、楽勝のレベルになっている。ひさしぶりに全力で闘える。マゾ牝奴隷に堕とされていても、闘争本能までは失っていなかった。
 アリーナは生贄を運ぶ籠の前へ連れて行かれた。
「たいへんに申し訳のないことですが、素っ裸になってください」
 村長はていねいな口調でとんでもないことを言った。
「なぜ、裸にならなければいけないの?」
「怪物から、生贄の扱い方を指示されているのです」
 村長は巻物を取り出してアリーナたちに見せた。モンスターの字は読めなかったが、添えられているへたくそな絵は、見間違えようがなかった。
 全裸の女が高手小手に縛られて、胸も縄で絞られていた。そして、胡坐に組んだ足首に巻いた縄が首に結ばれていた。
「使う縄も送られてきています」
 こんなふうに縛られては、まったく身動きできなくなる。
「これは困った」
 さすがに、ブライも頭をかかえた。が、すぐに迷案を考えついた。
「このモンスターの目的は明白じゃな。ならば、罠を仕掛けよう」
 アリーナは、モンスターの要求どおりに縛られることになった。
「手加減して疑われてはまずいですからね」
 クリフトは、ぐいぐい縄を締めあげた。手首が肩まで引き上げられ、この数日で膨らみを増してきた乳房が容赦なく絞りあげられる。絵に指示されているよりも深く身体を折り曲げられて、胡坐縛りにされた。
「罠というのは、これじゃよ」
 ブライは毒針を取り出した。アリーナの肩をつかんで仰向けに倒した。クレバスが天に向かって晒された。
「これを、ここに仕込んでおけば――どれだけHPがあろうとイチコロじゃ」
「そんな無茶な……!」
 アリーナは必死に抗議した。
「毒針なんて、ちゃんと使いこなせる者でも急所を直撃できる確率は1/8よ。こんな作戦、失敗するに決まってる」
「急所を直撃するよう、うまく腰を使えばよかろう。儂らが仕込んでやったはずだぞ」
 アリーナは腰をゆすって逃れようとしたが、厳しく縛られているのでほとんど動けなかった。
「今から腰を使う練習しておくつもりかの。感心感心」
 毒針はクレバスの奥深くへ挿入されてしまった。
 アリーナは籠の中へ座らされた。
「では、1/8の幸運を祈って。神のごカゴがありますように」
 神父はアリーナの乳首とクリトリスを順番にひねって十字を切った。
「あふ……ん」
 乱暴に扱われると感じてしまう自分を、アリーナは惨めに思った。

 緊縛されて籠に閉じ込められたまま、アリーナは森の奥深くに放置された。
 夜が更けて、モンスターが姿を現わした。
 カメレオンマンが現われた。暴れ狛犬が現われた。
「なんで、3匹も……!」
 アリーナは絶望の悲鳴をあげた。カメレオンマンをうまく毒針で倒せても、暴れ狛犬に食い殺されてしまう。
(でも、まさか……)
  城でふたりに迷惑をかけどおしだった罪滅ぼしというだけでなく、ふたりのサディストの慰み物にされていると、アリーナははっきり自覚している。それでも、まさか見殺しにされることはないだろう。ふたりの気配は感じないけれど、きっと近くに潜んでいるはずだと信じていた。信じようとしていた。
 武者修行に名を借りて嬲られながら、アリーナはふたりに反抗する気力はない。しかし、城へ帰れば……スキャンダルをおそれて、ふたりを暗殺しようと考えるようになるかもしれない。王女としては当然だ。クリフトとブライも、同じように考えただろう。ならば、アリーナが亡き者になってしまえば……暴れ狛犬に食べつくされてしまえば、ザオリクだって役に立たない。
「いやあっ! 助けて!」
 アリーナは生まれて初めて、底なしの恐怖を味わった。
「怖がることはない。取って食ったりはしないぞ」
 カメレオンマンは籠の中のアリーナを抱き上げた。
「それどころか、お嫁さんにしてうんと可愛がってあげよう。俺と、この2匹のワンちゃんのお嫁さんだ」
 アリーナは草の上に座らされた。
「それにしても、念入りに縛ったものだな。あの村長は呆れた変態だ」
「そうしろって、あなたが指図したんじゃないの。へたくそな絵まで付けて」
「俺が? そんなことはしていないぞ」
 アリーナは混乱した。ふたりが村長と示し合わせて(村長を脅して?)アリーナを騙したのだろうか。
 アリーナは必死に考えた。モンスターたちには殺意がなさそうだった。おとなしく犯されてやれば、生命は助かる。隠れ家へ連れて行かれるにしても、隙を見て逃げ出せる。しかし、毒針を使えば……
「待って。これは罠なの」
 アリーナはカメレオンマンに毒針の存在を教えた。カメレオンマンはアリーナのクレバスを用心深く探った。毒針を見つけて引き出した。
「よく教えてくれた。感謝するぞ」
 そのときだった。
 クリフトが現われた。ブライが現われた。村人たちが現われた。
「呆れましたね。モンスターに命乞いして、味方を裏切るなんて」
「これは、ちょっとやそっとの折檻で済ますわけにはいかんぞ。ヒャダルコ」
 モンスターは一掃された。

 村人たちは、縛られたままのアリーナを籠に押し込んで村へ連れ戻した。村の広場にかがり火が焚かれて、アリーナの裁判が始まった。
「モンスターの油断を見計らって奇襲しようという作戦が失敗してしまった。裏切り者は死刑だ」
 村長の言葉に、村人が賛成した。
「最初からブライのヒャダルコを使えば、簡単だったじゃない」
 不自由な姿勢で引き据えられたアリーナは反論したが、退けられた。ブライもクリフトも通りすがりの旅人だ。村人が自分たちの力でモンスターを退治してレベルアップしなければ、つぎに襲われたとき全滅してしまう。
「村長を説得して、自分の村は自分たちで守ると決心させたのに、ピンクはそれを台無しにしたのです」
 なんだか話の順序が違う気もしたが、アリーナにはモンスターに命乞いをしたという負い目があった。反論できなかった。
「村の皆が怒るのはもっともじゃが、この娘は城で雇っておる。ここで殺させるわけにもいかん」
 ブライがアリーナの助命を求めた。アリーナは意外に思った。
「この娘は、モンスターの花嫁になろうとした。いっそ、望みをかなえてやってはどうかな。ここには暴れ狛犬などおらぬが……」
 村でいちばん大きな犬が連れてこられた。
「いや、いやようっ!」
 アリーナは泣き喚いた。しかし、許してもらえなかった。アリーナは前に倒された。胡坐を組んだ姿のまま肩を地面に押しつけられ、尻が高く持ち上がった。犬の鼻先でクレバスが全開になった。
 アリーナは犬に犯された。
 それから、いつものように全裸で大の字に吊るされた。ブライのいばらの鞭にかわって、村人たちの棍棒で折檻された。ベホイミでも間に合わず、クリフトは何度かザオラルまで使わねばならなかった。

 翌日――アリーナに絹のローブと羽帽子が返された。城へ帰るのだと言われても、アリーナはさからわなかった。
 事情がどうだったにしても、モンスターに命乞いをしたという屈辱は、アリーナのプライドを根底から崩壊させていた。家来に辱められたことは、彼らが邪悪だったからであり、自分が未熟だったからだ。しかし、モンスターに命乞いをして媚を売ろうとまでしたのは――自分の卑劣さがすべてなのだ。
 城へ戻ってからも、アリーナはふたりに口止めしようとさえしなかった。口止めをするには、まずその事実を自分が認めなければならない。今際のきわにひと言でも口走られる危険を考えると、暗殺など思いもよらなかった。
 アリーナは二度と冒険の旅に出ようなどとは考えず、じゃじゃ馬ぶりもなりをひそめて、王に命じられるままに花嫁修業に精を出すようになった。
 クリフトとブライが再びアリーナを辱めることはなかったが、声が出なくなった王のためにさえずりの蜜を求めて旅立ったときは、ほっとしたものだった。
 さえずりの蜜を持ち帰ったふたりは王の命令で、世界を覆わんとする暗雲の根源を突き止めるべく他国へ旅立つことになるが、それは別の物語となる。

(完)



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