アリーナの無茶修行(特訓その1)
風鴇能太
サランの町に着くと、まず装備を強化した。アリーナはわずかしかお金を持っていなかったし、クリフトとブライも同じだった。だが、ブライは宮廷魔術師の身分証を持っていた。
「この娘はピンクといって、アリーナ姫の身辺警護をおおせつかった侍女なのじゃが、武術の腕が未熟での。モンスター退治をかねて、特訓に連れ出したのじゃ。協力してくれぬか」
武器屋も防具屋も喜んで協力してくれた。アリーナは国民が忠実なことを素直に喜んだ。非協力的な国民がどんな罰を受けるかということまでは、考えが及ばなかった。
クリフトは銅の剣と革の鎧、ブライは身かわしの服といばらの鞭を装備した。
「さて、この侍女の装備だが……」
身体の動きを妨げない女性専用の防具はないかと、クリフトがたずねた。身分の卑しい侍女でも装備できるものを――と、変な条件を付け加える。
「売り物ではございませんが、とっておきのアイテムがありますです」
クリフトの真意を察して、防具屋の主人は小さな箱を差し出した。
「これなら、そこの可愛いお嬢さんにぴったりですよ」
箱の中には、乳房を隠すだけの胸当てと、飾りの多い細いベルト、透き通った生地の赤い布切れしか入っていなかった。アリーナには、どういうふうに装備すればいいか分からなかった。
「親父、着替えを手伝ってやれ」
「そうですか。それでは、まず裸になっていただかなくては」
「なぜです?」
「踊り子の服は素肌に装備するのです」
「……」
箱の中の品をどう身に着けても、肌のほとんどが露出してしまう。が、ふつうには売っていない強力な防具だと、まだアリーナは信じていた。
「着け方を教えてくれれば、自分でできます」
「どうせ、ここで着替えるんじゃ。遠慮せんでええ」
「身分の低い侍女の分際で、男に裸を見られるのが嫌とか我儘を言うつもりはないでしょうね」
アリーナはクリフトを睨みつけたが、それ以上の抗議はできなかった。アリーナ姫がお忍びで町へ来ているなんて噂が流れたら、近衛兵の1連隊がお迎えに来てしまう。
「分かりました」
アリーナは胴着とタイツを脱いだ。店の主人にうながされて、パンティも脱いだ。恥ずかしさで、顔も背中も赤く染まった。
店の主人はアリーナの股間に赤い布を通した。細いベルトをヒップの上に回して、布を折り返す。それから胸当てを乳房にあてがって
「これは困りました。この娘さんの胸は父親に似たのでしょう。カップがずり落ちます」
豊満な踊り子に合わせて作られた胸当ては、まだ成熟しきっていないアリーナの乳房には大きすぎた。
「では、こうしよう」
クリフトは前後に垂れている腰布の余りを切り取って胸に巻きつけた。
「このほうが、上下おそろいで見栄えがしますね」
短くなった腰布がベルトから抜け落ちそうになるので、後ろ端をベルトに結びつけた。そうすると布がよじれて尻の谷間に食い込んでしまった。胸のほうも、布が一重では乳首が透けて見える。
「これなら、たいていのモンスターは見とれて攻撃を忘れるかもしれないですね」
クリフトは勝手なことを言いながら、元の胸当てに着いていた飾り珠を胸の間に取り付けた。布が絞られて、乳房の上半分が露出した。
装備を終えたアリーナは姿見の前に立たされた。思わずしゃがみこみそうになるのを、どうにか耐えた。たしかに身体は動かしやすい。武者修行に最適な防具を選んでもらったのだから、すこし(?)恥ずかしいくらいは我慢しようと、自分に言い聞かせた。
アリーナは、まだクリフトとブライの忠誠を疑っていない。我儘放題の尻拭いをさせられてきた恨みを晴らしてやろうとふたりが企んでいるなどとは、思ってもいなかった。
「もうすこし、防御力を上げられないものかな。女戦士の中には、腕や腿に頑丈な装身具を着けて、それで敵の刃を受け止める者もいるそうだが」
それでしたら――と、また防具屋の主人が怪しげなアイテムを取り出した。厚い皮で作られたリングだった。それを二の腕と手首、太腿と足首に巻いて留め金で締め付けた。首にも同じようなリングが取り付けられた。どのリングにも、防御の役にはたちそうもない小さな金属環が取り付けられている。黒い革に銀色のアクセントがついて、ちょっとお洒落かなと、アリーナは能天気に思った。
アリーナは武器を持たされなかった。
「強い武器でザコをたおしても修業になりませんからね」
アリーナを一撃でたおし、ザオラルまで使いこなすクリフトの言葉は、上級者の適切なアドバイスに思えた。
装備が終わると、宿には止まらずに町を出た。
「まだまだ私のMPは残っています。ピンクがレベルアップするまで、このまま頑張りましょう」
人前と3人だけのときとで使い分けようとすると、うっかり忘れることもある。これからは侍女ピンクとして扱わせていただくと、クリフトが言った。それもその通りだと、まだアリーナは疑っていない。
サランから先へ進もうとすると、出現するモンスターが強くなってきた。
土わらしが2匹現われた。
アリーナの攻撃。アリーナは土わらしAに飛び蹴りをはなった。
「あっ……」
腰布がよじれて、クレバスに食い込んだ。アリーナは空中で身悶えた。攻撃は外れた。
土わらしAは仲間を呼んだ。土わらしCが現われた。土わらしBは仲間を呼んだ……あっという間に、敵は8匹になった。
土わらしEの攻撃。アリーナはすばやく身をかわした。土わらしFの攻撃。アリーナはすばやく身をかわした。攻撃の回避率は、身かわしの服よりも高い。
土わらしGの攻撃。土わらしGは長い舌で、剥き出しになっているアリーナの股間を舐めた。
「きゃああっ!」
アリーナは凍りついた。アリーナは総攻撃を受けた。瀕死のダメージを負った。
アリーナはクリフトを振り返った。クリフトは様子を見ている。ブライは様子を見ている。
アリーナは攻撃をかわしながら、やっと1匹たおした。土わらしはまた仲間を呼んで8匹になった。
アリーナは逃げ出した。しかし、クリフトたちに回り込まれてしまった。
「ちょっと敵が強いからといって逃げ出すとは、卑怯者。お仕置きが必要ですね」
ブライはいばらの鞭を手に取った。ブライの攻撃。
「いや、やめてえ!」
アリーナは身を守った。尻を鞭打たれた。HPが1になった。
土わらしが追いついてきた。
「やれやれ。こんな所へ来てまで、じゃじゃ馬の尻拭いとはのう」
ブライはヒャダルコを唱えた。土わらしは全滅した。
「これしきの経験値、儂らにはゴミじゃ。ピンクの手柄にしといてやろう。とっととGを掻き集めてこい」
礼儀作法の教師が主君の姫君に向かって吐くはずもない暴言だったが、アリーナは反発する気力すら失っていた。クリフトに卑怯者と言われた屈辱、ブライに鞭打たれたショック、初めて目の当たりにしたヒャダルコの威力。そのすべてが、アリーナの気力を根こそぎにしていた。
氷漬けになった土わらしの死骸を探ってアリーナはコインを回収し、ブライに差し出した。
アリーナはレベルが上がった。ホイミを掛けてもらって体力が全快した。
「さて、つぎは何が出てきますかね」
まだ町へは戻らずに経験値稼ぎを続けさせるつもりだ。
アリーナは、踊り子の服では闘いづらいと訴えた。
「それは、あなたが無駄な動きをするからです。本物の踊り子はその服を着て、どんなに激しく動いても、見苦しいことにはなりません――残念なことですけどね」
アリーナの抗議は、またしてもクリフトのもっともらしい説明で退けられた。
つぎに土わらしが現われたときには、アリーナは腰布の食い込みは無視して闘った。敵が仲間を呼ばなかったこともあって、モンスターをたおした。
レベルが4に上がったところで、やっと宿に泊まることになった。
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